音楽と舞踊

ネパール伝統音楽の起源は『リグ・ヴェーダ』(韻律を詠唱する一種の賛歌)にあり、後世になってその歌詞が『サーマ・ヴェーダ』に記されていることが発見されました。古来、伝統音楽はネパール音楽界の大きな一部をなしながら、ネパール楽器の演奏を通じて世代を超えて伝承されてきているのです。  

クラシックなメロディー構成はラーガと呼ばれ、季節や時間に応じて、楽器で演奏されるもの(インストルメンタル)や歌い手により詠唱されるもの等々、併せて数百もあると言われています。3時間を一区切りとすると1日24時間は8区分に分けられますが、各ラーガに込められた効果を出すため、ラーガの演奏はあらかじめ決められた特定の時間区分内に限定して行うこととされています。また、複数のラーガで作曲した歌に舞踊を取り入れて演じられることもあります。 

ネパールの民族音楽文化の中心を担っているのが、ドマイやガイネと呼ばれる巡回楽団です。ガイネは古くからサーランギ(バイオリンに似た民族楽器)を奏でながら彼らの民族謡を謡い、村の家々の一軒一軒を巡り歩いてきました。そして、様々な故事に根ざしたおとぎ話を語りながら、各地を転々と廻って歩くのです。ドマイはシャナイ(トランペットに似た民族楽器)を始め、様々な楽器を演奏します。多くの楽器を集めて合奏するスタイルを古くから得意としており、結婚式などで合奏曲を演奏してきました。このような行事ではパーンチバジャ(シャナイ、ナルシンガ(トランペットに似た民族楽器)、ダマハ(太鼓)、ドロック、テャムコ(小太鼓))と呼ばれる五つの楽器で演奏が行われるのが普通です。ただしドマイにとって楽器の演奏は実はアルバイトに過ぎず、通常は仕立屋として生計を立てています。ネパールの民族音楽は国中で今も盛んであり、民族グループと同じくらい多様となっています。

カトマンズ盆地内のネワール族は古典舞踊の達人で、様々な祭事において伝統的な仮面舞踏を披露し、それを存続させ続けてきました。このような踊りはしばしば、それぞれの舞踏家にさまざまな神々が憑依するタントリック教的表現ともされています。毎年インドラ・ジャトラ(8月中旬のお祭り)の間、マハカリの仮面を被った舞踏家がバクタプルで舞うラケダンスは、特に興味深いものと言えます。  

ネパール国内の多くの僧院で、僧侶による仮面舞踏が行われています。この仮面舞踏の山場に合わせてトレッキングが組まれることもあります。例えば毎年、有名なマニ・リムドゥ祭を見るために、多くの観光客がテャンボチェなどを訪れています。珍しいマニ・リムドゥ祭はヒマラヤ地域のものですが、チベット新年の時期にはカトマンズ周辺でも仮面舞踏が見られます。タライ平原に住むタルー族は独自の棒ダンスで観客を魅了しているほか、グルン族にはガトゥといって少女がトランス状態となる独特の踊りもあります。舞踏というのはそれぞれの文化の遺産を語り、歴史的意義のある過去の出来事を描写するものです。これら仮面舞踏は旅行者のために特別に披露してもらえることもあります。